建設業の未来を担う「特定技能」と「育成就労」の戦略的活用
――制度の運用方針から読み解く、建設業経営の新たな法的指針――
はじめに:建設業が直面する20万人の人材不足と新制度の幕開け
建設業界における人材不足は、もはや一時的な課題ではなく、事業継続を左右する致命的なリスクとなっています。令和6年4月からの時間外労働上限規制(建設業の2024年問題)の本格適用、そして激甚化する災害への対応や老朽化インフラのメンテナンス、国土強靭化の推進が求められる中、現場を支える技能者不足は深刻さを増しています。
政府の客観的指標に基づく最新の推計によれば、令和10年度には約312万人の建設技能者が必要とされる一方で、国内人材の確保やICT活用による生産性向上を最大限に進めたとしても、なお約20万人規模の人手不足が見込まれています。この巨大なギャップを埋め、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を維持するための鍵として策定されたのが、新制度である「育成就労制度」と、即戦力を受け入れる「特定技能制度」の新たな分野別運用方針です。
本コラムでは、特定技能制度を専門とする行政書士の視点から、法務大臣、国土交通大臣らが定めた最新の運用方針を精緻に読み解き、建設業経営者が押さえておくべき法的要諦と戦略的活用法を解説します。
目次
- 「技能実習」の終焉と「育成就労制度」の真の目的
- 建設分野における受入れ上限数と生産性向上への取組
- 「育成・キャリア形成プログラム」とCCUSの連動
- 専門家が警鐘を鳴らす「転籍制限」と待遇向上の義務化
- 安全衛生対策と標準見積書の活用によるコスト適正化
- 公租公課・社会保険・コンプライアンスの重要性
- おわりに
1. 「技能実習」の終焉と「育成就労制度」の真の目的
これまでの技能実習制度は「国際貢献」を主目的としており、実態としての労働力不足解消との乖離が長年問題視されてきました。しかし、新たに創設された「育成就労制度」は、その趣旨を根本から変え、明確に「人材育成」と「人材確保」を目的として掲げています。
建設分野においては、最長3年間の育成就労期間を通じて、特定技能1号へ移行できるレベルの知識・経験を修得させることが実施者に義務付けられます。企業は「単なる安価な労働力」としてではなく、将来の「特定技能外国人(専門技能者)」という自社の核となる人材の育成を前提とした、計画的な受入れ体制の構築が求められることになります。これは、経営戦略として「育てる」仕組みを社内に持てるかどうかが、今後の勝敗を分けることを意味しています。
2. 建設分野における受入れ上限数と生産性向上への取組
最新の運用方針では、令和6年度からの5年間で、特定技能1号の受入れ見込数(上限)を7万6,000人、育成就労については令和9年度からの2年間で12万3,500人と設定しています。合わせて約20万人規模の受入れ枠が確保されていますが、これらは決して「無条件」ではありません。
受入れの前提条件として、令和7年度までに建設現場の生産性を2割向上させるという政府目標に基づき、ICT(情報通信技術)の活用や、建設生産・管理システムの効率化、建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用した工事書類の簡素化といった「現場管理の効率化」への取組が必須となります。優良な事例を横展開し、業界全体を底上げする姿勢が受入れ企業には問われています。
3. 「育成・キャリア形成プログラム」とCCUSの連動
実務上、最も注目すべきポイントは、特定技能制度と育成就労制度を通貫した「育成・キャリア形成プログラム」の策定です。
これは、育成就労から特定技能1号、さらには熟練技能者である2号へと至る道筋を可視化するものです。CCUSによる技能判定(レベル分け)と連動させることで、外国人が自らの成長や将来のキャリアを客観的に把握できる仕組みが整えられます。企業側には、このプログラムに基づいた計画的な育成と、技能習熟に応じた昇給を含む正当な処遇が法的義務に近い形で求められます。特定技能2号への移行には「班長としての実務経験」が要件化されており、現場でのリーダー育成も視野に入れる必要があります。
4. 専門家が警鐘を鳴らす「転籍制限」と待遇向上の義務化
経営者の最大の懸念事項である「本人意向による転籍(引き抜き)」について、建設分野では独自の制限が設けられました。技能修得に相応の時間を要することや、他産業に比して高い労働災害発生率を背景とした安全衛生教育の重要性を考慮し、当面の間、転籍制限期間は「2年」と設定されています。
ただし、この「2年」の制限を有効にするためには、企業側に相応の負担が課されます。具体的には、前年の建設業平均賃金の上昇率を基準として分野別協議会が設定する「昇給率」以上の昇給を、1年目から2年目にかけて行うことが必須条件となります。制度を単なる「囲い込み」に使うのではなく、正当な処遇向上を継続できる企業のみが、安定した人材確保を許されるという法的立て付けになっています。昇給を怠れば、法的に転籍が認められるリスクが高まる点に注意が必要です。
5. 安全衛生対策と標準見積書の活用によるコスト適正化
建設分野の運用方針では、国内人材の確保と同様に、安全衛生対策が非常に重視されています。受入れ企業には、「安全衛生対策項目の確認表」の作成や、安全衛生経費を内訳明示した「標準見積書」の普及・周知が求められています。
これは、外国人材を受け入れるにあたって発生する適正なコスト(教育費、管理費、安全対策費)を、元請企業や発注者に対して適切に請求し、確保するための裏付けとなります。特定技能を専門とする行政書士は、こうした書類の整備を通じて、企業の利益率を守りながらコンプライアンスを両立させるアドバイスを行います。
6. 公租公課・社会保険・コンプライアンスの重要性
特定技能制度および育成就労制度において、法令遵守(コンプライアンス)は許可継続の生命線です。運用方針では以下の点が強調されています。
- 直接雇用の原則: 建設分野では派遣形態は認められず、直接雇用に限られます。
- 報酬の安定性と昇給: 同等の業務に従事する日本人と同等以上の報酬を安定的に支払い、技能習熟に応じて昇給を行う契約を締結すること。
- 公租公課の適切な納付: 住民税や社会保険料の未納は、企業のみならず本人にとっても在留許可更新における致命的なリスクとなります。
- 監督処分の厳格化: 建設業法に基づく監督処分(29条関連等)を受けていないこと等の適格性が厳しく問われ、違反した場合は受入れ計画の認定が取り消される可能性があります。
7. おわりに
特定技能・育成就労制度への移行は、単なるビザ申請手続きの変更ではありません。それは、企業の「人材確保戦略」と「法的リスク管理」そのものの変革を迫るものです。制度は年々複雑化し、提出書類の精度や認定後の履行確認(監査)の重要性は増すばかりです。
当事務所では、最新の運用方針に基づき、以下についての円滑なサポートを提供しております。
- 「建設特定技能受入計画」の策定、認定申請および変更届出の支援
- 育成就労から特定技能1号、2号への実務経験の証明方法のアドバイス(証拠書類の管理)及びスムーズな移行工程管理
- 雇用契約書、重要事項説明書、社内就業規則の制度適合性チェック
- 分野別協議会への加入および定期的な履行状況確認への対応支援
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